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natsuno07

詩のクロッキー帖

author: natsuno07
空飛ぶ色いろ

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あばんだんど

もう長いこと住人が不在になったままの家の
うすぐらい台所にはいると
冷蔵庫のボードには
母の字でわたしの名前と
待ち合わせの時間がかかれていた
何年も前に
きっと駅かどこかで待ち合わせたらしい
その当日の空気もそのまま

ニンゲンがすまなくなった家はそれでも
あんがい楽しそうで、
にこやかに生きてきたという様子で
庭や屋根裏にくる
野良猫だとかネズミだとか虫たちと
仲良く暮らしてきたんだぞという様子で
おかえりというような雰囲気をたたえていた
日灼けしたカーテンを透かして
埃っぽい光がさしていた

それから1年もたたないうちに
家は取り壊された
だから、もうわたしには実家はない
玄関をあけてすぐに
ああ帰ってきたなと思う
そういう家はもうない
だからどうということではない
そういうひとはいくらでもいる

それでも
台所でなんとなく歌う鼻歌のようにではあるけれど
恨みつらみがあると感じる
茶毒蛾の幼虫のように、ネズミたちのように
迷惑といわれる生き物には
そのような恨みもつらみもないはずなのに
その恨みつらみを押し付けられたのだろうと理解する

それから灰色の影のようになった
思い出せない自分が
ボードの待ち合わせ場所へ
ほんとうに向かったのかどうか
考えたりする


2018-7-2





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